障害理解教育の教材となる絵本の紹介②『みえるとかみえないとか』
今回紹介するのは、絵本『みえるとかみえないとか』です。
【あらすじ】
宇宙飛行士のぼくが降り立ったのは、後ろにも前にも目がある人が住む星でした。ぼくにとって当たり前なことなのに「かわいそう」「不便そう」と気を遣われて変な気持ちになりますが、これまでも星によって違う「当たり前」があったことを思い出します。そして、その星で生まれつき目が見えない人と出会います。自分とは違う「当たり前」がある人の世界の感じ方を知った時、ぼくはこう思います。
みえるひとと みえないひととでは、せかいのかんじかたが ぜんぜんちがう。ってことは、「べつの せかいに すんでいる」ってことなんだろうか。
(本文より)
【絵本の紹介】
この絵本は、視覚障害のある人と出会った主人公が、自分と自分以外の人との「同じ」や「違い」について考えるお話です。この絵本の素敵なところは、テーマが障害を扱ったものでありながらも、くすっと笑えるような場面があったり、「障害」という言葉を使わずに分かりやすく描かれていたりして、子どもが楽しみながら読めるところです。前回の「障害理解教育の教材となる絵本の紹介①」でも同じようなことを書きましたが、子どもは教訓的なことが書かれていると、なんとなくその物から心が離れてしまうような気がします。「こういう時はこうしなければいけない」と教えるのは時に大切なことではありますが(例えば災害時の行動など)、障害を初めて知ったばかりで教訓的なことを言われてしまっては、今後も障害に対して難しいイメージが付きまとってしまう可能性があります。この絵本には、そのような教訓的なものは書かれておらず、自然と視覚障害のことを知り、自分と自分以外の人の「違い」を子どもが知った時、どのように考えるかが分かりやすく楽しく描かれています。
絵本の最後にこのような言葉があります。
おなじところを さがしながら ちがうところを おたがいに おもしろがればいいんだね。
(本文より)
もちろんここで言う面白がるとは、からかったり馬鹿にしたりとかそういうことではありません。この絵本では、その面白がるという行為が「へー!」という言葉で表現されています。
この絵本は、作者のヨシタケシンスケさんが、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』の著者伊藤亜紗さんに相談しながら作ったものだそうです。出版元であるアリス館のホームページにお二人の対談が掲載されていました。その対談の中で『「へ―!」という驚きに価値が無いからこそ性格や主義、宗教など関係なく「あれびっくりしたよねー」ということだけでつながりあえる』ということをお話されていました。この「へー!」という感覚を知ることが、障害理解にとってとても大切なことなのではないかと私は思います。障害に対する誤解や差別などを生んでしまう根源は、それぞれの個人にある障害のイメージだと考えます。それは良いイメージだから良いというのではなく、良いにしろ悪いにしろ障害そのものを決めつけてしまうことに繋がります。だから障害について初めて知った時に、良いも悪いもない「へー!そうなんだ」という感覚があれば、誤解なく純粋に障害理解を深めていけるのではないかと考えています。
障害をテーマとして扱った絵本を子どもに読み聞かせしたいけれども少し不安がある、という大人の方も多いと思います。その時に、障害や多様性を考える初めてのきっかけとして、『みえるとかみえないとか』をおすすめしたいです。さらに本稿で紹介したヨシタケシンスケさんと伊藤亜紗さんの対談も、どのように考えながらこの絵本が作られたのかを知ることができてとてもおすすめです。絵本と併せて、ぜひ読んでみてください。
【参考】
・『みえるとかみえないとか』ヨシタケシンスケ/さく,伊藤亜紗/そうだん,2018/7/12,アリス館
・『みえるとかみえないとか』発売記念対談,『みえるとかみえないとか』発売記念対談① – お知らせ – アリス館 (alicekan.com)