障害理解教育の教材となる絵本の紹介③『ミカちゃんのひだりて』
今回紹介するのは、絵本『ミカちゃんのひだりて』です。
【あらすじ】
隣の席のミカちゃんは、いつでも1人だけ違うことをしています。アリを眺めていたり、自分の手にマジックで落書きをしたり…。みんながミカちゃんを「かわってる」と言うのは分かるけれど、なぜだか気になってしまいます。そんなある日、クラスで発表会の準備中に1人雨を見続けるミカちゃんに、クラスの男子が大きな声で怒鳴ります。「おまえな、ちょっとはくうきよめや!」
【絵本の紹介】
この絵本は、小学生の女の子ユリと隣の席のミカちゃんのお話です。ユリの語り口は軽妙な関西弁で、それが物語全体の雰囲気を明るくしており、そのうえユリの気持ちがリアルに伝わってきます。マイペースで、1人だけ違うことをしているミカちゃんは、クラスメイトから「かわってる」と言われていて、ユリから見ても「どうしてそんなことをしているのだろう」と不思議に思う行動ばかりです。しかし、当の本人は特に気にした様子もなく、ほや~っと笑って左手をゆらゆらさせています。
最初はユリも、みんなと同じようにただ「かわってる」と思っているだけでしたが、隣の席になったのをきっかけにミカちゃんがどんな人なのかを知っていきます。ミカちゃんの行動を理解することは出来ないけれど、ミカちゃんのことが気になってしまうユリ。そんな時に、発表会の準備をせずに雨を見るミカちゃんにクラスの男子が怒鳴ってしまいます。その時、ユリは心の中でこう考えていました。
みんながミカちゃんを「かわってる」ていうのん、うちにはよおわかる。いつでもひとりだけちがうことをしてる。
けどめだちたいからやってるんやなくて、ちょっとほかのひととズレてるだけやねん。それはわかってるんやけど…
(本文より)
ユリはミカちゃんと過ごす中で、ミカちゃんがわざと1人だけ違う行動をしているわけではないことに気がついていました。だから、男の子がミカちゃんに怒鳴った時、自分はどう行動すべきか葛藤します。ここからがこの物語の盛り上がりであるので、ぜひ続きを読んでみてください。
さて、この『わざとではない』に気がつくことは障害理解教育においてとても大切なことだと思います。このことに気がついていなければ、ミカちゃんのクラスの男の子のように「どうして空気を読まないんだ!」とか、「どうしてできないんだ!」などと責めてしまうことに繋がります。そしてその責めてしまう気持ちは、その人の行動だけ、あるいは社会や団体における1人のふるまいとしてしか見ていないから起こってしまうのだと思います。ユリのように、疑問に思いながらも、理解できないながらも、その人自体に注目して見ることで『わざとではない』に気がつくことができると思います。
その人自体に注目して見るとは、簡単に言えば「その人がどういう人なのかな」と考えながら見ることです。「その人がどういう人なのか」というのは完全に分かり得るものではありません。それは障害の有無にかかわらず全人類そうだと思います。家族であっても、友達であっても、どれだけ一緒にいてもその人の全てを理解するのは他人には到底できることではありません。しかしだからこそ、全て知ることは出来ないからこそ、少しでも誤解なく理解したいと思う気持ちを大事にしたいと考えています。そして『わざとではない』という誤解が減ったうえで好きなところも、ちょっと苦手なところもその人の中から見つけられると良いなと思います。
障害がある人の行動やその他のことで、他者から見ると「どうして」と疑問に思うことは少ながらずあると思います。それは本人にしか分からないことだからこそ、誤解が生じてしまうのだと考えられます。この本のユリのように、疑問に思いながらもミカちゃんを、その人を、どういう人なのかなと見ることが出来れば誤解が少しずつ減っていくのではないかなと思います。そのようなことを考えることができる、とても素敵な絵本です。『ミカちゃんのひだりて』をぜひ読んでみてください。
【参考】
・『ミカちゃんのひだりて』作・絵:中川洋典,初版年月:2018年6月,出版社:ひかりのくに