ウェアラブル生体情報センシングデバイスを活用した 健康管理による肥満へのアプローチ~生涯にわたる健康の自己管理促進をめざした自立活動への応用可能性の示唆~

Ⅰ.問題・目的

 肥満は病弱や知的障害教育において指導・支援の必要な状態として認識されている現代的な問題です。自立活動の「健康の保持」は、病気や身体の状態を理解し、生活管理や健康状態の維持・改善に向けた取り組みが内容として挙げられており、肥満へのアプローチの中心にあると考えられます。

 肥満が問題となっている児童生徒に対しては、学校教員は、学校内で養護教諭と連携し体重や体脂肪の測定と記録、食生活に関する指導を受けながら運動を習慣的に行うように促しています。また、 自立活動の目標は「個々の児童又は生徒が自立を目指し、 障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服 するために必要な知識、技能、態度、及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う(文部科学省、2018)」とされており、ここでは学校卒業後も課題と向き合い、学校での自立活動を中心としながら各教科・領域での学びを活かして改善・克服に向かっていく姿がめざされています。このように、肥満への対処に必要な、計測・記録・運動・栄養コントロールの習慣を継続するために、生涯にわたっ て活用できる知識・技能・態度・習慣を身に付けられるよう指導・支援することが重要であると言えます。

 近年、身体の状態を知り、自己管理するためのツールとして、ウェアラブル生体情報センシングデバイスが普及しています。測定された生体情報を生活に活かすための使い勝手の良いインターフェースを備えたアプリケーションも配信されており、計測・記録・運動・栄養コントロールの習慣化を支援するツールとして応用可能性は高いです。

 本研究は、これまでに実践されてきた肥満に対する児童生徒への指導の要点を踏まえた上で、現代のテクノロジーを活かした教育方法のアップデート可能性を事例によって示すことを目的としています。

Ⅱ.方法

 対象者の状態と使用するデバイスは以下の通りです。

⑴対象

 30代男性(健康状態以外に障害状態はない)

(2)活動開始時の状況

 身長170cm、体重84kg、体脂肪率26.5、BMI29.1の肥満(1度)状態。仕事はデスクワークが中心で通勤は車移動。運動の習慣はない。食事も満腹感を求めた食事量であるため栄養過多状態であった。

(3)ウェアラブル生体情報センシングデバイスとアプリケーションの概要

 腕時計型のデバイスであるFitbit Charge HRは歩数、移動距離、心拍、消費カロリー、睡眠、運動継続時間を計測可能。Bluetoothによってワイヤレスでスマートフォンと同期し、Fitbitアプリでデータを管理。Fitbitアプリには市販の飲食物のカロリー検索機能があり、簡単に摂取カロリーを入力することができる。

(4)活動方針

 デバイスは常時身に付け、1日の中で頻繁に同期して身体の状態の把握と記録。食事をするたびに摂取カロリーを入力。体重と体脂肪も毎日計測してアプリに入力。カロリーについては、1日の摂取と消費の差が1000になるようにコントロール。カロリー消費のための運動として、40分から50分程度の歩行に毎日取り組む。

Ⅲ.結果

 体重と体脂肪率について、1年間の継続的な取り組みによって体重が71.1kg(13㎏減)、体脂肪率が22.2(4.3減)、BMIが24.9(普通体重)となりました(Fig.1)。また、デバイスとアプリの活用によって、カロリーコントロールを安定して行うことができました(Fig.2)。

Ⅳ.考察

 デバイスとアプリを活用し、肥満に関わる生体情報を詳細に把握・記録することで、当事者は栄養と運動に対する意識が高まりました。また、些細な運動も記録されるため、生活の中で意識的に歩行するようになったことが生活習慣の変化として見られました。学校では教員が指導や助言などのフィードバックを行いますが、この取り組みではアプリによるフィードバックがその役割を担っていました。体重・体脂肪率、摂取カロリーの入力は5分程度で 完了し、同期は数秒で行われ、アプリを通して整理された情報にスムーズにアクセスすることができたため、情報整理の負担は少なかったです。以上のことから、デバイスとアプリを活用した肥満へのアプローチは生涯にわたる自己管理を促進する可能性をもつツールであることが考えられます。

 今後の課題としては、自立活動として何にどの程度時間をかけて、どのように指導・支援を行うかについての検討が必要になります。習慣作りに必要な授業の内容と単位時間、主体的にアプリを活用するためには健康管理に欠かせない知識を学ぶ必要もあり、他教科との関連についても視野に入れる必要があると考えられます。

Ⅴ.引用文献

文部科学省(2018)特別支援学校教育要領・学習指導要領解 説自立活動編(幼稚部・小学部・中学部)

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