週刊本吉研究室⑮9月27日号『教育・社会・個人について考えたこと』
⑷個人の心構えについて考える
大きな視点で社会について考えると、自分の力が及ばない範囲の話になってくるからしんどくなってくるのかもしれません。1人で巨大な山を動かせって言われているようなそういう気持ちです。
そこで、最後は個人としてどうありたいかについて、いくつかトピックをあげて終わりに向かいたいと思います。
①衝突や摩擦って何とも扱いが難しい
ここまでの話の中で繰り返し、衝突や摩擦という言葉を使いました。物理現象でも人間関係でも使うことができる言葉です。衝突や摩擦は強いエネルギーを生み、人に強く影響します。
例えば次のような感じです。
- 衝突や摩擦を通して鍛錬されていく人
- 衝突や摩擦によって摩耗・崩壊していく人
- 衝突や摩擦を繰り返すことで角(カド)がとれて丸みを帯びていく人
価値観が多様化する現代は、この衝突や摩擦を上手に扱えることが大切であると思っています。
あなたが起こしている衝突や摩擦の目的は“破壊”なのか、“生産”や“製錬”なのか。
目的を自覚せずに起こしている時がハイリスクなように思われます。
これを書きながら、材料工学と心理学、教育学との関係を考えると実に奥深い世界があることがわかってきました。人間に力を加える実験をしてはいけません。自然界にある現象を観察して関係させながらあれこれと考えています。
②滑らかな交流はどうしたら実現できるのだろう?
人間関係の中で上手にエネルギーを生じさせたり、トランスフォームを起こしていくには交流が必要だと考えます。この交流のやり方がポイントだと私は思います。
そのポイントの1つ目は「自分がどういう価値観で、何をしているのかを理解した上で交流する」ことです。
多くの人が「自分の価値観と行動が正しく、相手も同じ価値観である」を前提に交流しようとします。同じでなければ「正さなければならない」という意向がはたらきます。ここでは破壊に向かう衝突が発生しやすい。
いわゆる「一方的」というのはこの「前提をそろえる」をやらないことだと思います。衝突や摩擦は生じさせてもいいのですが“同意の上”であることが大事だと思うのです。まさにルールを共有した上でスタートするスポーツです。
これを成り立たせる上では、前に述べた通り教育が必要になると考えます。
※なお、一方的に無理な力が加えられそうな時は、危険なのでバッファーをはさむか安全な距離をとることが大切です。
ポイントの2つ目は「価値観を開示し、違いも含めて相互に尊重した上で交流する」ことです。
尊重する態度は、“破壊”の意図がないことを先に示す効果があります。そうすると、防御が解け、開放的なコミュニケーションが可能になります。
“尊重”とは難しいもので、単に「尊重しています」と言えば伝わるわけではありません。非言語コミュニケーションににじみ出るというかありありと出てくるからです。
また、自分と相手を相対化して、相手に理解してもらえるように自分の価値観を伝えることも大切です。心から相手のことを尊重するためには、違いの背景にあるものを理解する教養とコミュニケーション力が必要です。これまた教育が必要になると考えます。
こうして、互いの凸凹の形を相互に理解し合いながら、交流に必要な知的フィールドを整えることが、滑らかな交流には必要だと考えます。
③資本、権力を上手に使える
これは資本が集まる条件です。個人の単位で考えれば、生活や仕事の様子を見ているとわかります。
- 得た報酬(預かった資本)や権力を私有のものととらえているか、公共のものととらえているか
- 得た報酬(預かった資本)や権力を独占するのか、還元するのか
- 物的な豊かさだけではなく、“社会的信用”や“名誉”、”湧き起こる感情“に価値を感じているか
- 美しい扱い方をしているか
ゲームに勝利した後の振る舞いこそが重要なのです。ここに一過性/継続性の違いが現れます。これは、その状況にならないと意味がわからないかもしれませんが、一個人の単位でも考えるべきだし、十分に実践可能なことだと思っています。
偉そうに書いてしまいました。※なお、自己犠牲は長続きしないので、無理は禁物です。
④ラグビーのようなノーサイドの精神はどうしたら根付く?
成長には、問題、課題、ライバル、相対化できる相手の存在が必要です。
ルール・価値観を共有して一緒にゲームができる相手、渾身の力をぶつけあってエネルギーを生じさせたり、鍛錬し合える相手は貴重です。リスペクトの対象です。
何かを奪い合う相手であれば、破壊しなければならない対象にせざるを得ないのかもしれません。
これを混同しないようにすることも教育の重要な役割です。
学芸は争奪に勝利するための手段なのか。感じ取りたい価値は何であるのか。
鑑賞すること、コミュニケーションを通して交流すること。人の表現が豊かになるように、それを讃美できるように、技術やルールや価値観を伝えていくこと。
音楽・美術・体育、重要です。 文化活動を楽しめる人を育てるというのは、「サスティナブルでコスパが良い」と思っています。
(5)さいごに
学問の世界も六道のパラレルワールドのようです。
私は臨床心理学や特別支援教育がフィールドなので、悩み・成長など、個人に資する学問に取り組んでいます。真・善・美を求めつつ、それぞれの人の事情を踏まえて、共に豊かに生きることをめざします。
人生には正解がないので、それぞれが自己選択・自己決定をしていけるように教育をしていきたいと思います。
もちろん自分の人生も良くしていきたいと思います。
本吉研究室は、多くの人、物事が通過して、熱量を帯びていく場であることをめざしています。
雑談でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました。