重度・重複障害者への臨床動作法場面における映像と心拍反応を用いた体験評価に関する研究
Ⅰ 問題と目的
量的データを用いた臨床動作法の体験の研究は、質問紙法など言語を主な媒介としています。これまでに、動作感や情動体験感、対援助者体験感などの概念を整理するとともに、援助方法の違いによる体験の変化について研究が進められてきました(池永,2012)。
一連の研究は臨床動作法における体験を量的に評価し、体験の仕組みの解明や効果の実証をめざすものです。一方、言語によるコミュニケーションが困難な重度・重複障害者においては、その体験は援助者の観察に依っており、量的データによる評価には方法上の課題があります。
そこで、本研究では重度・重複障害者の体験を評価する方法として心拍反応に着目しました。とりわけ、近年発達が著しいウェアラブルデバイスを用いることで、臨床動作法の取り組みを制限することなくデータを収集・評価できると考えました。
以上の経緯から、本研究では映像と心拍反応データによる体験評価をめざしたデータ収集・分析方法を試行し、その可能性について考察することとしました。
Ⅱ 方法
①対象
重度・重複障害者(知的障害・肢体不自由)2名(以降、X氏、Y氏)。
②使用した機器とアプリケーション
・Garmin vivosmart4
腕時計型心拍測定デバイス
・Garmin VIRB ULTRA 30
専用カメラ
・Garmin VIRB Edit
映像編集アプリケーション
③調査期間
3泊4日の療育キャンプ(α年実施)の場で研究を実施しました。
④データ収集およびデータセットの作成
心拍反応データの測定と並行して、専用カメラを使って臨床動作法場面を撮影しました。その後、映像編集アプリケーションによって心拍数が表示される映像を作成しました(Figure1)。さらに、作成した映像を参照しながら毎秒の心拍データに対して援助者、姿勢の情報を入力しました。
分析対象データは、X氏が15404件、Y氏が11934件でした。
⑤分析方法
2名それぞれ、援助者・姿勢別でデータを分類、平均心拍数と標準偏差を算出。
また、援助者×姿勢でデータを分類し平均心拍数を算出、ヒートマップを作成しました。
Ⅲ 結果
X氏の援助者・姿勢別の平均心拍数および課題に取り組んだ時間をFigure2・3、援助者×姿勢のヒートマップをTable1に示します。
同様にY氏のデータをFigure4・5、Table2に示します。
Ⅳ 考察
映像と心拍反応をデータとして用いることで、前言語的体験の客観的評価、異なる状況間あるいは対象者間での比較が可能となりました。例えば、姿勢の違いによる平均心拍数を比較すると、X氏にとって胡坐位は安静状態に関わる姿勢であり、Y氏にとっては興奮状態に関わる姿勢であることが推察できます。また、Y氏に関わったO氏(SV)は短時間で課題に深く迫っていることがうかがえます。
これらのことから、本研究で試行したデータの収集・整理・表現によって、臨床動作法場面の諸要素の影響を客観的に評価できると考えられます。
データ処理の効率化と分析方法の応用については今後の課題であり、臨床・研修との関連を持たせながら研究を継続していきたいと考えています。
Ⅴ 引用文献
池永恵(2012)臨床動作法における援助者の援助が動作者の動作体験に及ぼす影響: 自己対峙的体験と他者対峙的体験からの理解,心理臨床学研究29(6),762-773