障害理解教育の教材となる絵本の紹介⑤『なまけてなんかない!ディスレクシアの男の子のはなし』

今回紹介するのは、絵本『なまけてなんかない!ディスレクシアの男の子のはなし』です。

【あらすじ】

小学1年生になるりんぞうは「どんなべんきょうするのかな?」と、とても楽しみにしていました。しかし、昨日勉強したことを授業で答えることができません。「あれ…なんだっけ…。」答えられないりんぞうに先生は言います。「りんぞうくん、もうちょっとがんばろう。みんなできてるぞ。」りんぞうは思います。「そっか、おれ、どりょく…どりょくがたりないんだ。」・・・

【絵本の紹介】

この絵本は、小学1年生のLDの男の子、りんぞうのお話です。小学校で勉強できることをとても楽しみにしていたのに、いざひらがなの授業が始まると、昨日の学習を覚えていない自分にりんぞうは不安になります。そのうえ、学校の先生やお母さんからは「努力が足りない」「みんなできているのに」と言われてしまいます。

私が印象的だったのは、この絵本が全体的に明るい配色で、可愛らしいタッチの絵で描かれていたことです。さらに、周りにある風景や物が細かく描かれていて、登場人物の表情もいきいきとしていました。しかし、ある2つの場面だけ少し違っているのです。真っ白のシンプルな背景に、りんぞうと先生の2人だけが描かれている場面です。教室にいるのに他の物は何も描かれておらず、足元からは真っ黒の影が大きく伸びています。この場面は、昨日の授業の内容を答えられないりんぞうに、先生がこのように言葉をかける場面です。

「りんぞうくん もうちょっとがんばろう みんなできてるぞ」

この場面がこういう風に描かれているのは、りんぞうの不安で心細い気持ちを表現するためではないかと私は考えました。みんなができているのに、自分だけができていない。しかし、どうすればできるのかも分からない。そのような状況にあるりんぞうは、あんなに明るい教室にいても、まるで1人ぼっちでいるかのような気持ちになったのではないでしょうか。それに続く、

「そっか…おれ どりょく…どりょくがたりないんだ」

というりんぞうの言葉からも、できない自分を責める気持ちが伝わってきます。そして、「どりょく」を2回繰り返したのには、どのように努力したら良いか分からない、どのように勉強すればできるようになるのか分からない不安な気持ちが隠れているのではないかとも推測できます。この絵本は文や文字数もあまり多くなく、読みやすい絵本ですが、その短い言葉からは語り手であるりんぞうの気持ちをリアルに感じることができました。

2つの場面のもう1つは、ぜひ読んで探してみてください。

あとがきにて、著者である品川さんはこのようなことを書かれていました。

一人でも多くの幼稚園や保育園の先生たちに、教師たちにディスレクシアを知ってもらいたい、そして子どもたち本人に「キミがなまけてるんじゃないよ」と伝えたい

(『なまけてなんかない!ディスレクシアの男の子のはなし』あとがきより)

教育ジャーナリストなどのお仕事をされている品川さんは、学校などで講演を行った際に、ディスレクシアという障害名は知っていても具体的なイメージや指導法などが浸透していない現状を目の当たりにしてきたそうです。品川さんはこのようなことも書かれていました。

大事なことは、1日も早く、個々の子どもが抱えている困難さに気づくこと。すべてはそこから始まります。

(『なまけてなんかない!ディスレクシアの男の子のはなし』あとがきより)

学習につまずきがありながらも、個人の能力や努力の問題とされて、りんぞうのように苦しんでいる子どもは多くいるのではないかと考えられます。適切な支援や指導を受けることができれば、その困難さを軽減することができるかもしれない。そのことを知る機会がもっと多くあれば、品川さんの言うように「気づく」ことができると思います。

この絵本は「気づく」きっかけになる本です。保護者や教師といった大人にも、そして子どもにも読んでほしい絵本です。

なまけてなんかない!ディスレクシアの男の子のはなし』をぜひ読んでみてください!

【参考】

・『なまけてなんかない!ディスレクシアの男の子のはなし』作:品川裕香,絵:北原明日香,発行日:2017年4月8日,出版社:岩崎書店

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